「敷金を全額返還して欲しい」といった意思を大家さんや不動産屋さんにしっかりと伝える際に有効なのが「内容証明郵便」です。

訴訟も辞さないとの決意を示す「内容証明郵便」とは?

大家さんや不動産屋さんから提示された敷金返還の見積書に対して、その金額に疑問があったり、納得できない場合は、「敷金を全額返還して欲しい」という意思を大家さんや不動産屋さんにしっかりと伝える必要があります。

そこで有効なのが「内容証明郵便」です。

なぜ「内容証明郵便」が有効なのか?
そもそも「内容証明郵便」とは何なのか?
本稿ではこれらの疑問についてご説明します。

「内容証明郵便」とは?

内容証明郵便は、

  • 手紙を出したこと
  • 手紙を出した日づけ
  • 手紙の内容
  • 相手に届いたこと

を日本郵便(郵便事業株式会社)が法的に証明してくれる手紙です。
ちなみに…当たり前のことですが…書いてある内容が正しいかどうかを証明するわけではありません。

言い換えれば、こちらの主張を存分に記載しても問題ナシということです。

「内容証明郵便」の用途と効果

これまでに利用したことがある方はほとんどいないと思いますが、「内容証明郵便」は以下のような場面で使われています。

  • 不動産売買の契約解除などの通知
  • 商品売買時の料金未払いに対する抗議
  • 商品の不着や破損に対する抗議
  • クーリングオフの通知
  • ブラック企業に対する退職届や賃金未払いの請求
  • 債権回収の督促状
  • 時効による債権消滅の通知
  • 損害賠償請求
  • 交通事故や不倫などの不貞行為の慰謝料請求
  • 債務免除
  • 債権譲渡の通知
  • 債権の時効中断
  • 検察、警察、都道府県労働局等司法警察員などへの告訴、告発状

なぜこういった場面で「内容証明郵便」が使われているのでしょうか?

それは、「内容証明郵便」が手紙の内容と郵送した日時を明確にできるため、訴訟(裁判)において証拠となるからです。普通郵便は証拠として扱われません。

つまり、あえて「内容証明郵便」で送ることで、「こちらは裁判も辞さない覚悟を持っていますよ」ということを伝えることができるのです。

Twitterには、このようなツイートもありました。

「内容証明郵便」にかかる費用

「内容証明郵便」を郵便局から出す場合の費用は以下のようになります。

①通常郵便の料金
82円(定型25グラムまで)

②内容証明料(1枚)
430円
※2枚目以降は1枚毎に260円が加算されます。

③書留料
430円

④配達証明料
310円

①~④の合計金額は1,250円です。

もし速達で送るなら280円(250グラムまで)が加算されます。

「内容証明郵便」の書き方・作成方法

「内容証明郵便」で使用する用紙は、文具店などで販売されている赤い枠・赤いマス目の内容証明書用紙(写真)はもちろん、一般的なプリント用紙でも、便せんでもなんでもOKです。やはり市販の内容証明書用紙を使った方が、こちらの本気度が伝わりやすいでしょう。

ちなみに、封筒の色や大きさにも規定はありません。

「内容証明郵便」で使用する内容証明書用紙

「内容証明郵便」は手書きでも問題はありませんが、パソコンやワープロを使うことをおススメします。なぜなら、同じ書面を3通用意する必要があるからです。

3通のうち、1通を相手に送り、1通を日本郵便が保管し、1通をあなたが保管することになります。

文面は要点をまとめてシンプルに

文面は用紙1枚につき20文字以内×26行以内と決められています。

  • 半角文字
  • アルファベット
  • 数字
  • 句読点

も1文字と数えますので注意しましょう。括弧は2つで1文字とカウントされます。つまり、[ ]や( )はペアで1文字となります。

文面の内容は、要点をシンプルに書くことがポイントです。もちろん、季節の挨拶や近況などは一切不要です。

文面には、以下のような項目を入れるようにしましょう。

  • 通知日
  • 貸主名と住所(不動産会社名・住所)
  • 氏名
  • 借りていた物件と所在地
  • 契約終了日
  • 退室した日
  • 問題の内容
  • 振込先

文体は「です・ます」調です。
どんなに怒り心頭であったとしても、相手を泥棒呼ばわりするような感情的な表現は避けるようにしましょう。そうした表現は、脅迫や恐喝、名誉棄損の対象として扱われてしまうことがあるからです。あくまでも事務的に書くことを心がけてください。

文面のテンプレートはインターネットで入手可能

インターネットで「内容証明郵便」と検索をすれば、サンプルを入手することができます。
例えば、【[文書]テンプレートの無料ダウンロード(https://template.k-solution.info/2016/10/10093551.html)】で入手可能な文面は以下のようになっています。

私は貴殿と平成○○年○○月○○日に◯◯県◯◯市◯◯町1-2-3 ◯◯マンション ◯◯号室について賃貸借契約を締結しました。契約締結の際には、貴殿に敷金として金○○万円をお預けしております。そして、平成○○年○○月○○日に契約が終了しましたが、私は平成○○年○○月○○日に同建物を明け渡しております。
 したがって、貴殿には私に対して敷金◯◯万円の返済義務がありますが、平成○○年○○月○○日、貴殿は私に「◯◯費用」として◯◯万円を差し引いた残金◯◯万円を支払う旨の見積書を送付してきました。
 しかし、建物には経年変化、通常の使用を越えるような損耗がありませんので、国土交通省のガイドラインによれば、私には上記費用を負担する義務はなく、敷金は全額返済されるべきです。
 よって、本書面到達後◯日以内に敷金◯◯万円満額を下記口座あてにお支払いくださるよう請求いたします。
 なお、上記期間以内にお支払いなき場合には、ただちに裁判所に少額訴訟の手続きに入りますので、あわせて申し添えます。

また、【敷金返還請求書/内容証明net(http://www.naiyo-shoumei.net/j15.html)】で紹介されている文面は以下の通りです。

こちらは状況説明などにより多くのスペースをとっています。
もはや「シンプル」とは呼べない文字数かもしれませんが、良い対応が期待できない大家さんや不動産屋さんに対しては、ここまでしっかりと主張をすることが必要かもしれません。

敷金返還請求通知書
平成●年●月●日

被通知人
 東京都●●区●● ○○ビル○階
 ●●●● 殿
通知人
 東京都●●区●●
 甲野 太郎

 私は、平成○○年○○月○○日より、貴殿が所有している下記建物を借り受け、居住しておりました。
所  在:
建物名 :
部屋番号:

 そして、平成○○年○○月○○日に解約の予告をした上で、平成○○年○○月○○日に同物件を貴殿に明け渡しました。

 しかしながら、賃貸借契約の締結時に敷金として預託しておりました金●●●,●●●円につき、すでに建物明け渡し後、相当な期間が経過しているにもかかわらず、貴殿からは未だ返還をして頂けておりません。
 なお、私は、賃借期間中、細心の注意をはらって生活してきたものであり、賃料の滞納もなく、同物件に関して経年変化以外に、通常の使用を超えるような消耗はありませんでした。

 当然ご承知のこととは思いますが、民法606条1項においては、賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うと定められ、最高裁判所平成17年12月16日により、通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗などの必要経費分は、通常、賃料の中に含まれていると解されております。
また、消費者契約法第9条1項1号では、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定等について、平均的な損害の額を超えるものは、その超える部分について無効であるとされ、同法10条においても、民法、商法等による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とされております。

 よって、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の例示する以下の趣旨に反した費用について、敷金から控除することは、これをすべて拒否致します。
①次の入居者募集や確保の為に行うもの
②物件の管理上の必要から生じるもの
③自然損耗や通常の使用により生じるもの。

また、仮に賃借人の故意または過失によって生じた損害であっても、畳床、カーペット、クッションフロア、クロスなどは経過年数6年で減価償却されて1円の評価となりますので、賃借人の負うべき責任範囲は、新品購入した時点から6年を経過した時点で1円になる範囲に限られます。

 なお、「賃借人の責任の有無にかかわらず、また、居住年月日の長短にも関係なく、解約時には当然に修繕費用を敷金から差し引く旨の特約は、無効である。」という趣旨による判例も数多くあります。
 つきましては、貴殿に対し、本書面到着後1週間以内に、金●●●,●●●円を返還されるよう請求致します。
 よって、返還して頂けない場合には、残念ながら、宅建協会や国民生活センター、消費者センター等の関係機関への申告や、訴訟・仮差押えその他の法的手続き、などの然るべき対応をとる所存ですので、ご承知おき下さい。
草々

敷金返還の猶予については、相手の手元に書面が到着する日を確定できないため、「到着後●日以内」としするのが一般的です。投函日から計算して相手の元に届くであろう日から数日の余裕を持たせましょう。

この日付は送り主が決めるものなので、法的な効力があるわけではありません。郵便を受け取った後に、相手に応じる気があれば、要求通りの金額が振り込まれるか、あるいは「もう1週間猶予をください」といった連絡が入るはずです。

もし、何も音沙汰がなければ、「応じられない」「返還しない」という意思表示ということになります。

「内容証明郵便」の送り先は大家さん? 不動産屋さん?

ところで、「内容証明郵便」の郵送先…つまり、敷金返還の請求先は大家さんと不動産屋さんのどちらが良いのでしょうか?

部屋を借りる時、すべての手続きや契約金の支払いなどを不動産屋さんを相手に行うことはよくあります。
「部屋を借りてから退去まで、一度も大家さんに会うことはなかった」ということも珍しい話ではありません。

しかし、仮に大家さんの顔すら知らないという状況であったとしても、法律的には敷金返還の請求先は貸主である大家さんになります。

ということは、「内容証明郵便」の送り先は常に大家さん…とお伝えしたいところですが、実はそうではありません。
不動産業者に送った方が効果的な場合もあるのです。

そこで指針となるのが、部屋を借りている時に家賃を支払っていた相手です。
家賃の振込先が個人名であったり、不動産屋さんとは異なる名義であった場合は大家さん宛てに、不動産業者の口座に入金していたなら不動産業者が送付先となります。

準備ができたら郵便局へ

内容証明書の文面ができたら、郵便局に持っていきます。しかし、ここで注意事項がひとつ。

実は、すべての郵便局が「内容証明郵便」を受け付けてくれるわけではないのです。

そのため、最寄りの郵便局が受け取り可能かを事前に確認しておくようにしましょう。

封筒はのりづけをせず、切手も貼らずに持参

郵便局に持参するものは以下となります。

  • 内容文書(請求先に送るもの)
  • 内容文書の謄本(コピー)2通
  • 受取人(請求先)と差出人の住所・氏名を記載した封筒
  • ハンコ(三文判でも可)
  • お金

郵便教で「配達証明つきの内容証明郵便」を送りたい旨を伝えると、局員さんが内容を確認してくれます。不備があれば修正が必要になります。その際に修正印としてハンコが必要になります。

内容文章に問題がなければ、相手に送る1通を封筒に入れ、このタイミングでのりづけをして送付します。その後、控えをもらい、あなたが保管する1通と合わせて大切に保管しておきます。送付後に「相手にきちんと届けました」という連絡書が届きますので、これもきちんと保管しておきます。

手続きが簡単な「電子内容証明」

以上が「内容証明郵便」の概要です。「少し手間だな…」と思われたかもしれません。

実は2016年4月3日からインターネットを使った新しい電子内容証明サービス(https://e-naiyo.post.japanpost.jp/)がスタートしています。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

新サービス「電子内容証明」はメリット多し

まとめ

「内容証明郵便」を使うことで大家さんや不動産屋さんに主張を伝えることができます。
さらに、訴訟(裁判)も辞さないという強い気持ちも表示できるのです。

「内容証明郵便」を送付後、振り込みを指定した日までに返金があれば、めでたしめでたし、です。
敷金の本来の意味を理解している賢明な大家さんや不動産屋さんであれば、きっと返還に応じてくれるはずです。

しかし…。
指定した日までに入金がなく、何の連絡もない場合は相手に支払う意思がないということになります。
こうなった場合は最終手段へと進みます。

こちらの記事をご参照ください。

敷金返還の最終手段である「少額訴訟」とは? その方法と手順

敷金トラブルの時効は10年

過去10年間で敷金トラブルはありませんでしたか?
敷金や保証金の返還請求権の消滅時効は10年です。
時効を迎えていないなら、今からでも間に合うかもしれません。

本稿を参考に、改めて問い合わせてみてはいかがでしょうか?

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